2017年9月4日月曜日

鳥取戦隊ナントカシナイヤー  其の6


母船が月の裏側に入ると、電磁波の影響で通信障害が起きる
ベースが陰から出るまで、地球に降下させた部隊との連絡は取れない

ー まぁ、あれだけの戦力を投入したんだ、心配は無かろう・・ ー

戦闘力に特化しすぎた結果、報告連絡が疎かになる
と言うのは、地球の企業でもよく見られる光景だが
そんな時ほど、不測の事態と言う奴は起きるものなのだ


ドカーン!

朝のコーヒーを口からこぼし、黄子はお気に入りのスウェットを汚した
『なにごとなの?』
口調が古風なのは仕方が無い
そう言う生まれなのだ
黄子の実家は白壁土蔵群にある
時間の流れ方が他とは異なる地の出身なのだ

黄子が窓の外を見ると黒煙が立ち上っていた
最初に思い付いたのはガス爆発による火災だ

ー まさか、北からのミサイルでは無いだろう ー

一瞬不吉な想像が頭をよぎったが、すぐに消えた
炎がすぐそこまで迫っていた

え!
ええ!
えええ!?
なんなの?
なんなの? なんなの? なんなの?

!!?#$%

黄子が正気を取り戻したのは、視界の端に見慣れないカメの様なロボットを見付けたときだった

四本足の対地上用殲滅ロボット(通称カメ)

大きい!
ガメラくらいありそうだ

ガメラを知らない黄子はなんとなくそんな事を思った

ー 地球外生命体! 侵略者! ー

ふと我に返った黄子はテーブルの上のコーヒーまみれの台帳に目をやった
次にコーヒーのシミの付いたお気に入りのGlamorous スウェットを見た

『13,800円もしたのに・・・』

『今日は午後からデートなのに・・・』
正確には恋愛の伴うデートのそれではなかったが、少なからず黄子には乙女心を含んだ想いがあった
あわよくば、的なことを思わないでも無い相手だった

『帳簿も新しく作り直さなきゃいけないじゃない』
パソコンの苦手な黄子は経理仕事をすべて紙とエンピツでこなしていた

『そもそもなんなの今更・・・40年よ・・・私の青春をバカにして・・・』
黄子に理不尽な怒りが込み上げて来た

女性とは理屈じゃないのだ


フッと一陣の風が黄子の長い髪を踊らせた


つづく




鳥取戦隊ナントカシナイヤー  其の5

ダーツの刺さった先は、鳥取県倉吉市上井町2丁目9-5『居酒屋十円』

ー レストランの様な施設か ー

特に重要な拠点とも思えなかったが
カイはゲンを担ぎたかった

ダーツの刺さった地点を攻略出来たら全てが上手く行く様な気がした

現時点で支給されている武器は、
四本足の対地上用殲滅ロボットが240機(通称カメ)
球式対空戦闘要塞が3艦(通称トーラス)
万能自律型戦闘員3千体(通称センジュ)

侵略の初期段階で支給される兵器はこの程度だ
と言っても、カメ3機でアメリカぐらいならほんの30分足らずで荒野に変えられるほどの実力がある
弱小の有限会社とは言え、侵略を生業としている部族なのだ
当然と言えば当然の実力差だろう

カイはなんとしても特別ボーナスが欲しかった

『ここは思い切って戦力の半分を投入してみるか・・』
カメ120機、トーラス1艦、センジュ1500体
スペック通りの実力なら地球を2時間半で制圧出来るほどの戦力だ
たかだか『居酒屋十円』一件を潰すには少しばかり大袈裟な気もしたが、
とにかくカイはボーナスが欲しかったのだ


そして、2017年4月2日午前8時30分
先陣を切った対地上用殲滅ロボット、通称カメが『居酒屋十円』の上に飛来した


ちょうど黄子がコーヒーに口をつけた瞬間だった


つづく



2017年9月3日日曜日

鳥取戦隊ナントカシナイヤー  其の4


ー 代々星を守ってきた由緒ある家系 ー

そんな時代錯誤なマンガみたいなものが本当に存在するのか?
事ある毎に黄子は自分に問いかける

『我が家は代々星を守ってきた由緒ある家系なのだ』
幼い頃からそう言い聞かされて育った
子供の頃は何も疑わず、ただまっすぐに修行に励んだ
しかし、いくら月日が流れても
母の言う星の危機とやらはやって来ない

『何も無いのが一番なんだよ』

それはそうだと思うが・・
では、自分は何の為に修行に明け暮れてきたのか?
来る日も来る日もひたすらに技を磨いて来た
恋人も作らず、結婚もせず、ただひたすらに・・・

気が付いたらもう四十だ

来るかも分からない侵略者とやらに費やした四十年

さすがに何かがおかしい
黄子はそう気付き始めていた



今日は珍しくオフの日曜日だったが
昼まで寝てやろうと思っていたのだが
前日の土曜日の夜に担当した結婚式が長引いたおかげで、夜に片付けようとしていた事務仕事が終わっていない
午後から用事があるから、早起きして片付けるしか無い

『店長に休みなど無いな・・』
黄子は誰にともなく呟いた

黄子はただヒーローをしている訳ではない
そんな訳の分からんことで食べてはいけない

倉吉駅から歩いて3分ほどの所にある美容室「ルーレク」の店長
それが黄子の世を忍ぶ仮の姿だ

売り上げの事だったり、更新の事だったり、融資の事だったり
従業員の事だったり、恋の事だったり、恋の事だったり、恋の事だったり
考える事は山ほどあって、いつの間にか星の守り手としての自覚は薄れていた
もはや現実はこっちなのだ
星だの侵略だのとマンガじみた戯言などどうでも良かった

ー 幸せはこれから捜そう ー

決意を新たにコーヒーを一口すすった
まさにその時、爆音が轟いた



つづく





2017年9月2日土曜日

鳥取戦隊ナントカシナイヤー  其の3

そして、その日はやって来た。

2017年4月2日 日曜日。

カイがこの日を選んだのには理由がある。
地球と呼ばれるこの惑星では、日曜日は誰も働かないと聞いたからだ。

ー  最初に巡ってきた日曜日に全てを終わらせてやる! ー
カイは意気込んでいた。

なぜなら、この会社では侵略に伴った時間に応じてボーナスが出るのだ。
過去の例で言えば、最短記録はセリオズ将軍と言う人物が惑星ガニメデを侵略した時に出した3時間28分だ。
この時のボーナスは噂では18兆5千億円に上ったと言う。

カイはそれを狙っていた。
一生遊んでおつりが来る金額だ。

ニートだったカイにもやっと運が巡ってきた。
この時はそう思っていた。

あの悪魔の様な黄色い奴が現れるまでは・・・



つづく

鳥取戦隊ナントカシナイヤー  其の2

『本当にこの会社は大丈夫だろうか?』
カイが心底そう思ったのは、未経験でしかも初出勤のその日に自分が惑星侵略のチームリーダーに任命された時だった。

『本当にこの会社は大丈夫だろうか?』


ー  楽天家でご都合主義の面倒くさがりや  ー

そんなカイだったが、さすがにそこまでのお気楽ものではなかった。
しかし、無一文のカイには最初から選択権など無かった。

カイの赴任先は言わずもがな銀河系に浮かぶ辺鄙な田舎の惑星だった。

(そうでなければ物語が進まない)

辺境ではあったが、青く美しい星だった。


素人のカイには、その青く輝く美しい星の価値も侵略する意味も皆目見当がつかなかったが、ただ一つ『綺麗だ』と言う事は理解出来た。

『そんな陳腐な感想しか出て来ない自分に、果たして本当に侵略など出来るのだろうか?』
とは、思わなかった。
なぜならカイは、頭が悪かった。

だからこそ今ここにいるのだし、胡散臭い話にも飛びついてしまう。


それがカイの良い所でもある。

と、カイの母親は思っているのかも知れない・・・



赴任して3週間、カイの最初の仕事はどこから攻めるか決める事だった。

星の歴史も経済状況も勢力図も戦略的要因も何も知らず、カイは決断を迫られていた。

もとより素人なのだ。悩んでも仕方ない。


カイは支給された世界地図を広げ、眼を瞑って地図めがけてダーツを投げた。


星から受信したローカルネットワークにそんな映像を見て、自分もやってみたくなったのだ。

と言うより、他の方法が浮かばなかった。

ダーツは弧を描いて小さな島のギリギリのラインに刺さった。

地図には『TOTTORI』と書かれていた。

鳥取県(とっとりけん)は、日本の一つ。中国地方日本海側、いわゆる山陰地方の東側を占め、東は兵庫県、西は島根県、南は中国山地を挟んで岡山県広島県に隣接。西日本有数の豪雪地帯でもある。全国47都道府県中、面積は7番目に小さく、人口は最も少ない。また、の数も最も少ない。県庁所在地は県東部の鳥取市

支給された端末にはそう表示された。


悪く無い。

カイはそう思う事にした。
人口が少ないのは好都合だし、町が少ないのも楽そうに思えたからだ。
なにより、カニが美味そうだ。

カイはバカだった。


つづく







2017年4月19日水曜日

鳥取戦隊ナントカシナイヤー  其の1

西暦2017年4月2日。
桜が開花する少し前、それは突然やって来た。

しかも、何故かピンポイントに鳥取県倉吉市にやって来た。

地球外生命体
遥か遠く、タクシーで行ったら破産してしまうほど遠くの惑星『シンリャクーン』
その星には大小様々な侵略会社が存在した。
他の惑星を侵略する事で繁栄してきた侵略部族だ。


西暦2017年3月3日。
就職浪人中のカイはなるべく楽がしたかった。
だから、安定している国営の侵略局や、給料のいい外資系侵略会社ばかり面接に行っていたが、どこへ行っても中卒など相手にされず、カイは途方に暮れていた。

一陣の風が吹いた。

お約束のようにカイの顔に張り付く求人のチラシ

素人大歓迎!
衣食住完備!
週休二日、春休み、夏休み、冬休み有り!
レーザーガン支給!
今なら特典で惑星間旅行プレゼント!
『デンジャー侵略有限会社』
お問い合わせは、小林まで


怪しさ大爆発だが、カイは空腹も手伝ってまともな判断が出来なくなっていた。
もう二日何も食べていない。

衣食住完備!

このフレーズが効いた。

カイは迷わず電話した。
面接もなく二つ返事で採用が決まった。



つづく